魅音は黙って聞いていたが、話が終わると、「具が少ない」と悲しそうな目で訴えた。

「おむすびの感想はいらないから。そうじゃなくて、その……水都はどういうつもりで、無理だってコメントを入れてきたと思う?」
「知らなーい。本人に聞けばぁ?」
「だってそうしたら、水都のSNSを覗き見していることも話さないといけないわけだよね? 聞けないよ」
「あ、そっか……」

 魅音はなぜか、不自然に視線を泳がせた。焦っているように見える。

「どうしたの?」
「なんでもない!」
 
 魅音は白々しい笑い方をすると、顔の前で両手を振った。

「まぁ、なんていうかー……、いろいろと誤解が生じるよね!!」
「んん?」
「なんでもないっ!! ひとりごとでーす! それよりもっ!!」

 魅音は「それよりもっ!!」に力を入れると、手づかみで冷凍コロッケを口に放り込んだ。

「あ、コロッケ食べたっ!」
「うちのお腹は、おむすび二つじゃ満足できない。それよりもさ、水都くんはブリトーなんちゃらを奢ってくれたんでしょ? それに対して、シカトするのは人間としてどうかと思うよ。取り柄のない貧乏地味女子だなんて、誰も言っていない。悲劇のヒロインぶるのはやめなよ。神様は諫めてなんかいない。むしろ、応援している。それにさ、約束は守ったほうがいいよ」
「うん……」

 ウジウジしている自分は嫌いだ。自分のことを好きになりたいのなら、細かいことに捉われずに、勇気を出さなくちゃ。

 私は黄色い付箋紙に、『一緒に帰りたいです』と書いた。
 何食わぬ顔で水都の机の横を通り過ぎながら……サッと、水都の机の上に付箋紙を貼った。

(嫌われていないかな。大丈夫かな……)

 不安なことばかり考えてしまう。
 六時間目が始まる直前。水都が私の机の横を通った。青色の付箋紙が机に貼られる。

『僕も一緒に帰りたいです』

 いかにも女子らしい丸文字の私と違って、水都の字は綺麗だ。止めや跳ねがしっかりしている。
 自分の机に戻った水都と、目が合う。こそばゆくて、へへっと笑うと、水都もふわりと笑った。

 放課後。私と水都は目で合図して、一緒に教室を出る。会話を交わすことなく、少し離れて歩く。たまたま近くを歩いていますよ、といった(てい)で。
 昇降口を出ると、雨が強くなっていた。

「傘忘れた。どうしよう……」
「僕の傘に入りなよ」

 水都が、グレー色の傘を広げた。