「いらっしゃいませー。十五日まで、揚げ物が全品三十円引きになっています。いかがでしょうかぁー」

 お弁当が並んだ棚を整えながら、私はときたま、割引キャンペーンのフレーズを叫ぶ。
 バイト仲間の大学生は声出しが恥ずかしいと言うけれど、私はむしろ、元気が出るし、ストレス発散にもなるので好きだったりする。
 コンビニでのバイトを始めて、四ヶ月。平日は、火木の三時間。週末は五時間勤務。
 時給は安いけれど、気に入っている。オーナーとオーナーの奥さんは親切な人だし、バイト仲間たちとも気が合う。

 八時になったので退店し、気持ちのいい涼やかな風を浴びながら歩く。
 家までは、二十分。この二十分の間に、水都の家がある。

 水都の家はでかい。
 まず、家を囲っている塀が高い。照明が植樹を照らしているのがおしゃれだし、門扉の奥には高級車が二台止まっている。
 家はモダンなデザインで、高級感がある。奥行きのある二階建て。両親と水都の三人暮らしなのだから、そんなに部屋数はいらないと思うのだけれど。
 水都の部屋がどこかは知らないけれど、二階だろうと予想する。
 もし水都がたまたま窓から外を眺めていて、私に気づいたりしたら最悪だ。ストーカーだと誤解されたくない。

 歩く足を早め、さらに十五分歩く。ゴミ集積所に裏に、私の家はある。
 名前は、『コーポ向井』。昭和に建てられた、古いアパート。あまりのボロさに、住居人は私たち家族だけ。騒いでも安心。実に快適。
 錆びた鉄製の階段を上がり、煤けた灯りに照らされている玄関を開ける。狭い玄関と、これまた狭い台所。その奥に、六畳と四畳の和室がある。
 六畳の部屋で、妹弟がテレビを見ている。二人ともパジャマ姿だ。
 
「ただいまー! 今日のおみやげはすごいよっ!! 焼肉弁当と、ふわとろオムライスをゲットしましたー!!」
「わぁ、マジで⁉︎ やったね!」
「ボク、焼肉弁当がいいっ!!」
「やっぱり? くるりは焼肉だと思っていた。ひよりはオムライスでいい?」
「うん!」

 我が家は賞味期限切れのコンビニ弁当に満面の笑顔になるほどの、貧乏家族である。