家に帰って、ぬるくなったお風呂に入る。沸かしたいがお金がもったいないので、そのまま湯船に浸かる。

「こういうとき、たくさんお金があったらいいなって思っちゃうなー」

 冷える前に湯船から出て、急いでパジャマを着る。
 カゴに入れておいたスマホが光っているので、見ると、【ん】さんからコメントがきていた。

【ゆり@yurarinko・1時間前
 無理だって諦めていた。こんな自分、彼には似合わないって。でも限界。好きだと気づいてしまった。可愛くなりたい】
 ↓
【ん@supenosaurusu・30分前
 ゆりさんの好きな人ってどういう人ですか? 差し支えのない範囲で教えてもらえたら幸いです】
 
 私は、【ん】さんが水都であることを知っている。でも水都は、【ゆり】が私であることを知らない。
 だったら、バレない程度に大胆な返事をしてもいいよね。

【ゆり@yurarinko・1時間前
 無理だって諦めていた。こんな自分、彼には似合わないって。でも限界。好きだと気づいてしまった。可愛くなりたい】
 ↓
【ん@supenosaurusu・30分前
 ゆりさんの好きな人ってどういう人ですか? 差し支えのない範囲で教えてもらえたら幸いです】
 ↓
【ゆり@yurarinko・1分前
 とっても素敵な人です。いつかデートできたらいいなって夢見ちゃいます】


 歯を磨いていると、【ん】さんから返信が届いた。

【ゆり@yurarinko・30分前
 とっても素敵な人です。いつかデートできたらいいなって夢見ちゃいます】
 ↓
【ん@supenosaurusu・1分前
 無理なんじゃないでしょうか】


「えっ⁉︎ む、むりっ⁉︎」

 歯磨き粉の泡が勢いよく飛んで、洗面所の鏡についた。

 水都は優しい。私の発言をいつだって肯定してくれた。その水都から否定するコメントが届くとは思わなかった。水都らしくない残酷な文字に、泣きそうになる。
 私みたいな取り柄のない地味女子が、水都の彼女にふさわしくないことぐらいわかっている。でも、夢見たっていいじゃない。それすらもダメだっていうの?
 ふらふらとした足取りで洗面室から出ると、起きていた父が「おや?」と目を見開いた。

「顔色が悪いぞ。具合が悪いのか?」
「あ、ううん。大丈夫。なんでもない」

 父を心配させないために笑って見せたけれど、全然大丈夫なんかじゃない。水都と話せて嬉しかった分、ダメージが大きい。