伊藤さんとの話を終えた、その帰り道。水都の家の前で、スマホをタップする。
【ん】さんが、つぶやきを更新していた。

【ん@supenosaurusu・2時間前
 ずっと話したいと思っていた人と話せた。勇気を出して良かった】

 鼻の奥がツンとする。

「私も、ずっと水都と話したいと思っていた。同じ気持ちだったんだね。勇気を出してくれて、ありがとう」

【ん】さんに、コメントを入れる。

【ん@supenosaurusu・2時間前
 ずっと話したいと思っていた人と話せた。勇気を出して良かった】
 ↓
【ゆり@yurarinko・10秒前
 良かったね。その人も話したいと思っていたんじゃないかな】

 水都の家の二階を見上げる。明かりのついている角部屋。黄緑色のカーテンの奥に、水都がいるのかもしれない。
 黄緑色のカーテンを見つめていても、彼に気持ちは届かない。だったら私も、あふれる想いを文字で綴ろう。

【ゆり@yurarinko・1秒前
 無理だって諦めていた。こんな自分、彼には似合わないって。でも限界。好きだと気づいてしまった。可愛くなりたい】

 明日、水都と話すことを伊藤さんに教えたら、色付きのリップを買ってくれた。
 遠慮する私に伊藤さんは、「保湿大事! プルプル唇は女の子の必須だよ」とウインクをした。
 普通の人にとっては、色付きリップは浮かれるようなことじゃないのかもしれない。けれど私にとっては、初めて手に入れた可愛くなるためのアイテム。心がそわそわしてしまう。