私に手紙を渡すために、水都が店に来てくれた。そのことに、頬が緩んでしまう。
 流しにある鏡を覗くと、顔がにやけている。バイトが終わるまであと一時間もあるのに、これはマズイ。
 私は頬をピシャッと叩くと、表情を引き締めた。
 それなのに、水都の私服姿が頭から離れていかない。ジーンズと薄手のニット。V字のニットから覗いていた鎖骨が綺麗だった。

「……って、私のバカー! キモすぎるっ!!」
「どうした?」

 挙動不審な言動を見かねたのだろう。伊藤美月さんが声をかけてきた。けれど、店内で話すわけにはいかない。
 なんでもないです、と誤魔化すことはできる。けれど、彼氏のいる伊藤さんに相談してみたい。
 私は悩みがあることを伝え、相談に乗ってほしいと頼んだ。

「わー、嬉しい! ゆらりちゃんに頼られた! 九時まで待っていられる?」
「はい」

 私のバイト上がりは八時。伊藤さんは九時。
 私は先にバイトを終えると、家に電話して遅くなることを伝えた。廃棄処分になったお弁当を事務所で食べる。
 九時になり、バイトを終えた伊藤さんとコンビニの裏に回った。縁石に座り、伊藤さんが買ってくれたホットココアを飲む。
 九月下旬。夏の熱気が遠ざかり、冷ややかさが増している。ホットココアを両手で包み込むと、指先が意外と冷えていることに気づく。

 私は伊藤さんに、水都と絶交したことを話した。
 自分の心の中に押し留めてきたのに、魅音に話したことで解放されたらしい。言葉がすんなりと出てきた。
 伊藤さんは聞き上手だった。いじめられたことや絶交したこと以外にも、自分に自信が持てなくて、可愛く思えないことも話した。

「水都がお店に来てくれて嬉しかったけれど、それって、土曜日に会う約束をするためで、告白とかじゃなくて……クラスメートとして普通に話そうとか、そういうことなんだと思います。だから、付き合うとか、ないと思う……」
「どうしてそう思うの?」
「だって……私、可愛くない。ブスだし、地味だし……水都に似合わない……」