水都と悠長に立ち話をしているわけにはいかず、私はレジに入った。水都は、レジ待ちの客の後ろに並ぶ。
 大学生のお姉さんが入っているレジが空いたにもかかわらず、水都は後ろの客に譲り、私のいるレジに来た。
 
「温めますか?」
「ううん。温めなくていい」
「レジ袋は?」
「欲しい。四つと一つに、分けて入れてくれる?」
「有料だよ。いいの?」
「うん」
 
 有料のレジ袋を二枚も買うなんて、さすがは金持ち。と、レベルの低い感心をする。
 水都の言うとおりに、袋を分ける。すると水都は、ブリトーが四つ入った袋を差し出してきた。

「ゆらりちゃんにあげる。四人家族で合っている?」
「合っているけど……。え? どういうこと?」
「ブリトー、食べたことないんでしょ? 僕も食べたことない。食べた感想、明日言おうよ」
「いいけど……。って、私たち、明日も話すの?」
「ダメ、かな?」
「ダメじゃないけど……」

 恥ずかしそうに視線を泳がせる水都。私も照れ臭さのままに視線を泳がせた。
 今までお互いが見えないかのように振る舞ってきたのに、突然、会話を始めた私たち。昔のように……とはいかず、大変にぎこちない。
 
「本当にもらってもいいの?」
「うん。あのさ……」

 水都はジーンズのポケットから、四つ折りになっている紙を取り出した。

「本当は買い物をしに来たんじゃないんだ。これを渡したくて」
「なに?」
「読んだらわかる。土曜日もバイトだよね。何時に終わる?」
「一時に終わるけど……。土曜日にバイトが入っていること、魅音から聞いたの?」
「そういうわけでは……」

 水都は言葉を濁すと、斜め後ろに顔を向けた。次の客がレジ待ちをしている。気を遣ってか、水都は早口になった。

「土曜日の午後一時半に待っている。ダメだったら、明日言って」

 水都はしきりにレジ待ちの客を気にしている。周囲に気を遣うところが水都らしい。
 私は「わかった」と頷くと、会話を終了させるために「ありがとうございました!」と接客スマイルを浮かべた。
 水都は嬉しそうに目元を綻ばせると、ブリトーが一つだけ入った袋を持って店を出ていった。