「では次ー。九月十日。【告白現場を見られて最悪だ】【死にたい】……告白現場を見たのはだーれだ?」
「あ……私です……」
「じゃあ、これは? 【目が合った。やばい。可愛い】【昔も可愛かったけど、さらに可愛くなっている】……これは誰を指している?」
「うーん……誰だろう?」
「はぁ⁉︎」

 魅音は大きな目を、さらに大きく見開いた。目玉が落ちてしまうんじゃないかと心配になる。

「わざとか? 鈍感な私って可愛いでしょ、って思っているなら違うからな! イラつくだけだぞ!」
「わざとじゃないよ! そういうんじゃなくて、だって別に私、可愛くない……」
「みなっちは激重感情一途男子なんだから、あっちこっちの女に気があるわけない!!」
「それは魅音の思い込みだよね? うちらの学年、可愛い子たくさんいるもん」
「思い込みじゃない! 証拠はある。【昔も可愛かったけど、さらに可愛くなっている】。これは、ズバリ! 長い付き合いの相手であることを示唆している。君である確率が高いんじゃないかね? どうだね、自首する気になったかね⁉︎」
「名探偵魅音って感じだね」
「名探偵ではなく、魅音警部補と呼んでくれ。……って、そんなことはどうでもよくて!!」

 魅音のぽっちゃりとした手が、私の腕をバシッと叩いた。

「痛っ!!」
「自業自得の痛みだ! ゆらりは告白現場を見たんでしょ!」
「う、うん。声、大きいよ。まわりに聞こえるから、もっと静かに……」
「なんとも思っていない相手に告白現場を見られても、死にたいって思うほど落ち込まないと思うよ! 相手がゆらりだから、落ち込んだんだよ。そこはわかるよね⁉︎」
「そ、そうなのかな……。でも私、可愛くないもん……」
「あー、うじうじしている女、嫌い! めんどくさしっ!!」

 本気で怒った魅音は迫力がある。圧がすごい。

「ゆらりこそ、自己肯定感が低すぎだよ。いいところ、たくさんあると思うよ。誰かに嫌われても、うちがいるし、それでいいじゃん。自信を持って生きろ! みなっちを励ますより先に、自分を励ませ!!」

 魅音は立ち上がると、私の背中を力強く叩いた。

「自信注入してやる!!」
「いててててっ!」

 魅音は合唱部なのに、体育会系のような熱いハートを持っている。
 私はそんな魅音が好きだし、「誰かに嫌われても、うちがいる」との励ましがとても嬉しかった。思わず、涙ぐんでしまう。それを誤魔化すために、エヘヘと笑った。

 チャイムが鳴る。

 おしゃべりに夢中になっていて気がつかなかったけれど、いつの間にか水都は登校していて、席に座っていた。
 担任が教室に入ってきて、私は慌てて自分の席に戻った。
 右斜め前方に座っている水都。その横顔はやはりかっこいい。フェイスラインがシャープなせいか、大人っぽい。半袖から見える腕には、ほどよく筋肉がついている。
 元々かっこいいのに、高校生になってさらにかっこよくなった。垢抜けない私とは、違う。

(あーっ! 悲観モード継続中になっている。自信を持とう!!)

 ──ぶらりのぶは、ブスのブーっ!!

 自分に自信を持とう、自己肯定感を上げようと決意した矢先。意地悪な言葉を思い出してしまった。
 ぶらりとあだ名をつけられて大笑いされた時の衝撃は、今でも心に残っている。
 
(美少女だったら、あんなあだ名、つけられずに済んだのかな……。水都の隣を歩いていた、ハーフの女の子みたいな……)

 中学時代。学校帰りの水都を見かけたことがある。ハーフっぽい美少女と歩いていた。女の子は満面の笑顔で、水都の腕に手を絡めていた。水都は無表情だったけれど、その女の子を手を振り払うことはしなかった。
 彼氏と彼女に見えた。