「まだ仲直りしていないわけ? どうなっているの? 全世界の人が呆れているからね」

 魅音は鼻の根元に皺を寄せると、情けないと言わんばかりに盛大なため息をついた。
 私は太陽の日差しを浴びるのが好きなのでベランダで話をしたいのだけれど、魅音は将来のシミ対策として壁側で話したがる。
 そういうわけで、朝のホームルームが始まる二十分前。壁側にある魅音の席で話をする。

「全世界の人って、大袈裟すぎ」
「大袈裟というのは、修行僧の袈裟からきていて、本来は粗末な布を合わせたものなのに、時代とともにきらびやかなものへと変わっていった。大きくて豪華な袈裟は仰々しいということから……」
蘊蓄(うんちく)はいいから!」

 魅音はニヤっと笑うと、座っている椅子に背中を預け、ひらひらと手を振った。

「水都くんに謝るなんて息巻いていたけどさ、無理だろうってわかっていたよ」
「なんでよ⁉︎」
「女の勘ってやつ。気を利かせて、水都くんがSNSやっているのか聞いて良かったよ。感謝してよね。そうそう、三組の合唱部の子に聞いたんだけどさ。川瀬杏樹も水都くんのことが好きらしい。運命の再会なんだって。勘違い女って痛々しいこと、この上なし」
「えっ……で、でも、中学のとき、サッカー部の前田くんが好きだって聞いたことあるけど……」
「気が変わったんじゃない? 一途な人のほうが珍しいから。好きな人がコロコロ変わるのが普通。うちも推しイメケン一位の座が、戦国時代かっていうぐらい、激しく争っている」

 魅音の推しイケメンの話はさておき。
 川瀬杏樹は水都が好き……。
 血の気が引いて、指先が震える。水都と仲良くなったら、またいじめられるんじゃないかと怖くなる。
 青ざめる私に、魅音は「大丈夫だって!」と明るく笑った。

「うちがいるし。勘違い意地悪女に水都くんはやらん。水都くんの心に、他の女が入る隙間は一ミリもなし! 運命の再会という言葉は、ゆらりと水都くんのためにある!!」
「大袈裟。そういうんじゃないし」
「そう? うちには運命の再会に見えるけど……。なんで、キョトンとした顔をしているわけ? 水都くんのつぶやき、読んだよね?」
「うん。びっくりしちゃった。悩み事があるみたいだね。励ましてあげたいよ」
「励ます?」
「うん」

 私は周囲を見回してから、声をひそめた。

「死にたいって、書いてあったよね? それと、嫌われているって。自己肯定感が低いよね。いいところがたくさんあるから大丈夫だよって、励ましてあげたい」

 魅音は口をポカーンと開けた。それから、怒った顔で私の腕を叩いてきた。

「痛っ!」
「鈍感女めっ! 水都くんは恋の病にかかっているの! 好きな人のことで、悩んでいるんだってば!!」