妹弟を学校に送りだすと、家にいるのは、私と父の二人になった。父はニュース番組を見ている。
 登校まで、少し時間がある。いつもなら掃除をするのだけれど、今日はやらないといけないことがある。

「水都って、勘が鋭そう。ちょっとした写真からでも、あの場所じゃない? ってバレちゃいそう」

 過去に投稿したものの中から、地域が特定されそうな写真を削除する。さらには、学校の行事や試験やバイトのつぶやきも消す。

「これで完璧。誰が見ても、鈴木ゆらりのSNSだとわからないぞ。さてと、水都にメッセージを送ろう」

 水都のSNSの名前は、【ん】
【ん】さんが投稿した最新のつぶやき、【どうしよう。知ってしまった】にコメントを入れる。

【ん@supenosaurusu・9月18日
 どうしよう。知ってしまった】
 ↓
【ゆり@yurarinko・10秒前
 どんなすごいことを知ってしまったの? 気になります】

 父が飲んでいるインスタントコーヒーの匂いが、部屋に漂っている。その匂いに、脳がシャッキっと目覚めた気がする。
 私は、うーんと大きな伸びをした。

「反応がないかもしれないけど。でも、モヤモヤした気分でいるよりずっといい。すっきりした!」

 私と父は一緒に家を出ると、赤錆の浮いている鉄階段を降りた。階段の下で、手を振って別れる。
 父は自転車で職場である介護施設に、私は徒歩で学校へと向かった。