杏樹と私は、小中と、何度も同じクラスになった。けれど、全然仲良くなれなかった。
 三つ子の魂百まで、ということわざは本当だと思う。杏樹の気の強さは変わらないまま。私はそれが苦手で、彼女とは距離を置いている。
 杏樹が私を見た。彼女の鋭い視線が苦手で、つい、うつむいてしまう。
 杏樹はツンとしたすました顔で、私のそばを素通りした。長いサラサラ髪から、ふわりと花の匂いがした。
 
(いい匂い。川瀬さんっておしゃれだよね……)

 我が家のリンスインシャンプーとは違う、いい匂い。女子力の違いに落ち込んでいると、魅音が毒づいた。

「ヘアコロンなんかつけちゃって。くせー」
「え? シャンプーの匂いじゃないの?」
「ヘアコロンを手に持っているじゃん。うち、甘ったるいにおいって嫌いなんだよね」

 魅音は鼻をつまみながら、話を続けた。

「それよりもさ、川瀬に負けたままでいいわけ? やり返さないの? うち、協力するけど」
「負けるとか勝つとか、どうでもいい。仲直りできれば、それでいい」

 ずっと、水都に謝りたかった。でも周囲の目が怖かったし、勇気もでなかった。
 けれど高校生になり、水都と同じクラスになった。町田魅音という頼もしい友達もできた。神様が、仲直りするチャンスをくれた。
 ウジウジと後悔するのには、もう飽きた。いじめっ子のせいで、過去を引きずったまま生きていきたくはない。

「よし、決めたっ!!」
「さすがは親友。川瀬杏樹にどうやって仕返しする? 同じことをやり返したいよね。あの女の好きな男子を調べて、関係をぶち壊してやろうぜ!」
「ちがーう! あの人のことはどうでもいいから! 水都に謝ることを決めたのっ!!」

 親友といっても、心は通じないものである。
 
 トイレに行った後、教室に戻った。水都の席は、廊下側の前から二番目。
 水都を見ると、頬杖をついてぼんやりとしている。
 私は声を発していないのに、なぜか水都の目がこちらに向き──視線が交わった。
 ドキンっ! と、心臓が跳ねる。
 今まで、私たちは視線が合わなかった。気まずさのあまり、私が水都を見ていなかったというのが大きな原因だけど……。
 水都の目が、少し、大きくなった。
 驚いているのが伝わってきて、私はなんだか恥ずかしくなってしまい、慌てて自分の席に戻った。
 
 そして、放課後。私は謝罪すべく、水都の後をつけた。
 水都にバレないように尾行しつつ、タイミングを見計らって彼の前に飛びだして謝る。
 そういう作戦だった。
 しかし──。