お昼休み。お弁当を持って、魅音と一緒に中庭に来た。空いているベンチに座り、お弁当を広げる。
 私のお弁当は実にシンプル。具入りのおむすび二つだけ。朝は妹弟にご飯を食べさせ、父のお弁当を作り、皿を洗い、洗濯物を干して……と忙しいため、おむすびが一番手っ取り早い。
 中に入っている具は、唐揚げだったりウインナーだったり炒り卵だったり焼き鮭だったりと、その日の朝食に出たものが入っている。
 今日のおむすびの具は、目玉焼きの黄身の部分と、きのこのバター炒め。
 
 魅音の母親は、料理教室を開いている。そのため、魅音のお弁当は栄養バランスがいいし、彩りも美しい。
 
(アスパラの肉巻き、いいなぁ。手作りっぽいコロッケもある。しかも別な容器には、キウイフルーツ。贅沢すぎるっ!!)

 魅音のお弁当に羨望の眼差しを送る。
 魅音はぽっちゃり体型。その分声量があるので、合唱部に所属する身としてはいいのだろうけれど、やはり十六歳女子は体型が気になるというもの。
 チラ見していると、魅音はおかずをお裾分けしてくれるときがある。

「羨ましいって顔してる。食べたいなら、お弁当を交換してもいいよ」
「へっ、交換⁉︎ 本当に⁉︎」
「うちさ、あんまりお腹が空いていないんだよね。それに、ゆらり特製おにぎりを食べてみたいって前から思っていたんだ。交換する?」
「わーっ、嬉しい!!」
「ただし、条件がある」
「なに?」
「ゆらりと水都くんってさ、微妙な空気だよね。わざと目を合わせないっていうか。前に、昔は仲良かったって言ったことあったじゃん。喧嘩でもしたわけ?」
「あー……」

 水都と絶交したことは、当時の先生にも言っていないし、父にも妹弟にも話していない。
 いじめられたことが言いにくいのもあるし、水都にひどいことをしてしまった負い目もある。

「暗い話だから、あんまり話したくないんだけど……」
「そっか。話したくないのを、無理に聞く気はない。じゃ、お弁当交換はなし。いただきまーす。肉巻きから食べよう」
「わーっ!! 待って待って! アスパラの肉巻き食べたーい!!」

 アスパラは、節約の味方ではない。スーパーで売っているアスパラは、ひと束が大体、三本か四本。我が家は四人家族。一人一本では、寂しいものがある。それにアスパラは、欠かすことのできない食材ではない。アスパラを買うんだったら、じゃがいもやにんじん、玉ねぎを買ったほうがいい。
 そういうわけで、アスパラに飢えていた私は、禁断の箱を開けることにした。

「わかった、話す!! お弁当を交換しよう!」
「よしよし」

 こうして私は、アスパラの肉巻きを食べた。美味しすぎて、頬がじーんと震える。
 
「美味しすぎるっ! ほっぺが落ちそう。ひよりとくるりにも食べさせてあげたい!!」
「大袈裟すぎ」

 食に困っていない魅音は、呆れた顔をした。