次の日から水都は登園した……と、いうわけにはいかず。やはりそこは大人の事情で、どうしようもできなかったらしい。
 けれど、一週間後。水都は登園してきた。
 幼稚園の門で立ちすくんでいる水都に、私は手を振って駆け寄った。

「みなっち、会いたかったよー!!」
「ん」

 水都はつないでいる母親の手を振り払った。

「一人で行きます。お母様は帰ってください」
「本当に大丈夫? 吐いたりしない? ちょっとでも気持ちが悪いと思ったら、すぐに先生に言うのよ。帰りたくなったら先生に言ってね。お母さん、すぐに迎えに来るからね。嫌なことや困ったことがあったら、我慢せずに先生に言うのよ。お友達に嫌がらせされたら、お母さん、相手の親に言ってあげるからね」

 水都の母親はおしゃれな人だった。薄いベージュ色のワンピース。その服装に似合う、パールのピアスとネックレス。五センチのハイヒール。高そうなハンドバック。
 幼稚園ではなく、音楽会に行くような格好だと思った。
 母親は化粧がバッチリしてある顔で、私と目線を合わせた。

「ゆらりちゃん。水都は胃とお腹が弱い子なの。もしかしたら吐いちゃうかもしれないんだけど、からかったりしないであげてね。それと、食が細くて。先生にはお話してあるのだけれど、食べられないものが多いの。残しても見ないふりをしてあげて。それと、乱暴な言葉は使わないでね。水都が真似したら困るから。それと肌が弱いから、あんまり太陽の下で遊ぶのは……」
「お母様! 帰ってくださいっ!!」

 大声をあげた水都に、母親は目を丸くした。

「あなた、大きな声が出せるの? 驚いたわ」

 私の母は放任主義。水都の母親は過保護。全然違うのがおかしくて、クスクス笑った。
 水都はバツが悪そうに、「お母様、それ以上言わないでください。友達に笑われたくないです」と小声で訴えた。


 水都と同じ幼稚園になった。けれど、水都とだけ遊ぶわけにはいかない。私には友達がたくさんいる。

「みなっちもおいでよ!」

 ままごとをしている友達の輪に誘う。水都は離れた場所に立ったまま、首を横に振った。
 ままごと遊びをしたくないのだと思った。
 それから私は、事あるごとに水都を誘った。入ったばかりで友達のいない水都に、たくさんの友達を作ってあげたかった。でもいつも水都は遠巻きに見ているだけで、友達の輪に一回も入ってこなかった。
 それが一週間ぐらい、続いた。