「ほら」

「あ、…ありがとう」

田所一成がペットボトルの水をくれた。そうやって気遣ってくれるとこはあるんだ。

体を起こして座る。歩いただけなのに結構汗がすごい。

「あの…」

「なんだ?」

自分用にもペットボトルを持って来た田所一成が蓋を開けながら隣に座った。

「ここってどこなの?教室でもアトリエでもないよね?」

「あー、ここは練習場(れんしゅうば)

「練習場?」

「モデルが歩く練習をする専用の場だ」

「そんなものもあるんだ服飾科!」

確かにね、床には真っ直ぐ線が引かれてたり全面鏡張りだったり変わった作りしてるなぁとは思ってたけどモデル専用の部屋があるとはさすがだ服飾科…

「ファッションデザイナーとモデルは2人で1つだから」

……。

なんだろう、少しだけ胸が熱くなった。
今のは私に言ったわけじゃないと思うけど。

「でも歩き方は全然だな!」

「あたり前でしょ!だから言ったじゃん、モデルとか私は…っ」

息を吸うだけ吸って次の言葉が止まってしまった、言えなくて。言いたくなくて。

「…なんだよ?」

合っていた視線を逸らして、ゆっくり深呼吸をした。