ジュエル王国の王宮へ向かったマリナ達四人。
(ここが王宮……豪華過ぎる……! 前世の大学の卒業旅行で見たフランスのお城よりもすごい……!)
 マリナは初めてやって来た王宮に度肝を抜かれていた。
 ありとあらゆるところに宝石が埋め込まれた、豪華絢爛な建物だったのだ。
 エヴァンジェリンの父のお陰ですんなりと謁見の間へ行くことができたマリナ達である。
 玉座には、国王バートラム・ジュエルが座っていた。どっしりと威厳あるオーラを放っている。
(この人が国王陛下……。言われてみれば、確かに王太子エドワードと似てる……)
 蜂蜜色の髪に青い目のバートラムを見たマリナは先程エドワードから暴力を振るわれたことなどを思い出してしまう。
「エヴァンジェリン嬢、其方の父から何があったかは聞いている。しかし、改めて学園で何があったかもう一度説明してもらえるだろうか。エヴァンジェリン嬢の録画魔道具で映し出された証拠などを照らし合わせて、相違がないかを確かめたい。特に、そちらのマリナ嬢には(つら)いことを思い出させてしまうかもしれないが……」
 申し訳なさそうな表情ではあるが、冷静な国王バートラムである。
「マリナ様、大丈夫かしら?」
 少し心配そうなエヴァンジェリン。
 マリナは深呼吸をして頷く。
「大丈夫です。……それでは、本日起こったこと及び、入寮日に王太子殿下達から受けた対応についてお話しいたします」
 マリナは怯まずまっすぐバートラムを見てエドワード達から受けた仕打ちを入寮日のことも含めて話し始めた。

「そうか……エドワード達が……」
 バートラムは青ざめた表情でため息をつく。
 マリナやアルの証言、エヴァンジェリンとヴィクターの第三者からの証言、そして証拠の映像を確認して明らかにエドワード達に非があると判断したのだ。
 バートラムは玉座から立ち上がり、まずはマリナの元へ向かい、(ひざまず)いて頭を下げた。
「私の愚息が貴女に大変申し訳ないことをした。エドワードの親である私にも責任がある。この謝罪を受け取るも受け取らないもマリナ嬢の自由だが、まずは親として謝罪をさせて欲しい」
 本当にエドワードはこの親の息子なのかと疑問に思えるくらい、真摯な謝罪だった。
「国王陛下、頭を上げてください。この件に関しては、陛下は何も悪くありません。ただ……王太子殿下達を許せるかは正直微妙です。彼らのせいで、私の学園生活は滅茶苦茶になってしまったので」
 マリナは思っていることを正直に話した。すると、バートラムは深く頷く。
「マリナ嬢の言う通りだ。エドワード達を許すも許さないも、マリナ嬢の自由にしてくれて構わない。そしてこれ以上マリナ嬢に危害を加えようとする輩は私が対処することを約束する」
「……分かりました」
 マリナは王太子達はまだ許せそうにないが、バートラムの謝罪により少しだけ心が穏やかになった。
 そしてバートラムはアルの元へ行き、同じように跪いて頭を下げる。
「其方も、愚息のせいで怪我を負わせてしまって本当に申し訳ない」
「ああ、この国の王太子や貴族の子女の質がよく分かった。ただ、国王は違うということは理解している」
 何とアルは国王バートラムに向かって新興男爵家の人間としては失礼な物言いだった。
 隣にいたマリナは慌てる。
「アル、このお方は国王陛下よ。いくら何でも失礼だと思うわ」
 すると今度はバートラムが慌てたような表情になる。
「マリナ嬢、このお方はだな」
「マリナには、俺が直接説明する」
 バートラムの言葉をアルが遮る。そしてアルは改めてマリナの方を向く。
「マリナ、黙っていてすまない」
 アルはゆっくりと眼鏡を外した。
 すると、アルの外見がガラリと変わる。
 無造作長めの茶色の髪はプラチナブロンドの髪に、オレンジ色の目は紫の目になった。
 顔立ちは変わらないが、髪と目の色が変わるだけで印象が大きく違ってくる。
「アル……!?」
 突然のことに、マリナは薄紫の目を大きく見開く。
 一方、エヴァンジェリンとヴィクターはそれほど驚いてはいなかった。
 エヴァンジェリンに関してはワクワクと真紅の目を輝かせている。
「新興男爵家のアル・ジョンソン改め、アステール帝国皇太子、アルジャノーン・アステールだ。余計なトラブルを避けるために新興男爵家の身分を名乗り、この眼鏡型の変身魔道具で見た目も変えていた」
 少し申し訳なさそうに微笑むアル改めアルジャノーン。
 その時、マリナはじっくり読んだ入学案内に小さく書かれていた注意事項を思い出した。
「だから『他国の王族や皇族が身分を隠して入学することがある』と書いてあったのね……。だけど、アルがアステール帝国の皇太子殿下だったなんて……!」
 マリナはまだ混乱していた。
 そしてハッとする。
「アル……じゃなかった、アルジャノーン皇太子殿下、知らなかったとはいえ数々のご無礼、申し訳ございません!」
 今まで新興男爵令息だと思ってアルジャノーンと接していたマリナ。彼が皇太子と分かった今、慌ててマリナはそのことを謝罪した。
「マリナ、俺は気にしていない。それに、君には今まで通りアルと呼んで欲しい。敬語も使わなくて構わない」
 アルジャノーンは優しく微笑む。
「ですが」
「マリナ、お願いだ」
 アルジャノーンの紫の目は、まっすぐマリナを見つめている。
(彼がアステール帝国の皇太子殿下……だけど……)
 やはりドキリと心臓が跳ねるマリナである。
「……分かったわ、アル」
 思わず頬を赤く染めるマリナだった。
(皇太子殿下だったとしても、アルはアルだわ。彼の優しさは何も変わっていない)
 マリナは首元のオレンジ色の花のネックレスにそっと触れた。
 何だか温かい気がした。