次にマリナ達が寄ったのは雑貨屋。
 マリナは家族へのお土産を選んでいた。
「マリナ、君の兄君達にこんなものはどうだ?」
 アルが持ってきたのはガラスに入った小さなジオラマ。アルはそれに自身の炎の魔力を少し注ぐ。するとジオラマ内の太陽の輝きが増す。
「すごいわね!」
 マリナは薄紫の目を大きく見開く。
「魔力を注ぎ込んだら変化が起こるらしい。水の魔力を注ぐと海辺が賑わうみたいだ」
 アルはジオラマに水の魔力を注ぎ込む。すると、アルが言った通りジオラマの海辺に活気が増す。
「すごいわ。というかアル、水の魔力も持っているのね。二種類以上の魔力を持つことは珍しいのに」
 マリナは薄紫の目を丸くしてアルを凝視する。
「ああ、俺は炎と水の魔力を持つ。二種類の魔力を持つことは秘密にはしているわけではないが、学園ではあまり言ってなかった。まあどちらかと言うと炎の魔力を扱う方が得意だ」
 フッと笑うアル。
「そうだったのね」
 アルのことをしれて、マリナは少し嬉しくなった。
「じゃあお兄様達にはこれにしようかしら。上のお兄様は風の魔力、下のお兄様は土の魔力を持つからどう変化するか楽しみだわ。あ、お父様とお母様にはこれがいいかもしれないわね」
 楽しそうに家族へのお土産を選ぶマリナ。アルはそんなマリナを見守るかのように、眼鏡の奥のオレンジの目を優しく細めた。


ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ


「アル、付き合ってくれてありがとう。アルのお陰で家族へのお土産が選べたわ」
 雑貨屋を出たマリナは明るく花のような笑顔をアルに向ける。
「……ならよかった」
 アルはほんのり赤く頬を染め、眼鏡の奥からのぞくオレンジの目を優しく細めた。
「次はアルの寄りたい場所に行きましょう」
「そうだな。ありがとう、マリナ」
 アルは目的地へマリナを案内する。
(そういえば、アルは何人家族なのかしら? よく考えたら私、アルのことをあまり知らないのかも。……友達……なのに)
 アルを友人だと思っているが、改めて考えると友人という関係よりも深くなりたいと思ってしまうマリナ。
(この感情は……何なのかしら……? 前世でこんな感情になったこと……ないわ……)
 マリナは手を胸に当て目をつぶる。
「マリナ? 大丈夫か?」
 アルの言葉でハッとするマリナ。
「ええ、大丈夫よ」
 マリナは何事もなかったかのように微笑む。
「ねえ、アルの家族はどんな方々なの?」
 気になったことを素直に聞いてみることにしたマリナ。
「どんな、か……」
 アルは少し考え込む素振りをして言葉を続ける。
「父も母も民のことを考えて動く人だな。俺は両親を尊敬している。それから、弟が二人、妹も二人いるが、全員それぞれの得意分野を磨いている感じだな」
 懐かしむような表情のアル。
「素敵なご両親だわ。アルは五人兄弟の一番上だったのね」
 初めて知るアルの情報にマリナは少し前のめりになっていた。
「ああ。家族揃うとかなり賑やかだな」
 アルは家族との時間を思い出したようで、楽しそうに口角を上げた。
「アルの家族、会ってみたいわね」
 まだ会ったこともないアルの家族に思いを馳せるマリナ。
 アルはフッと笑うのであった。

 その後、談笑しながら歩いているうちにアルの目的地に到着した。
 そこは女性向けのアクセサリーショップだった。
「もしかして、妹さん達にプレゼント?」
 きょとんと首を傾げるマリナに、アルは頷く。
「ああ、まあそれもある」
 アルは意味ありげな表情でマリナを見ていた。
「妹思いの素敵なお兄様ね」
 マリナはふふっと柔らかく微笑んだ。
 そして色とりどりのアクセサリーに薄紫の目を輝かせるマリナ。
「素敵なものがこんなにたくさん……!」
 マリナは細部まで凝ったオレンジ色の花のネックレスに目を奪われた。
(素敵なネックレスだわ……)
 そっと手に取るマリナ。
(だけど、予算オーバーね)
 値札を見たら現在持ち合わせている金額の倍であった。
 残念そうに諦めてネックレスを戻すマリナ。
 その様子をアルは見逃さなかった。


ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ


「アル、今日はありがとう。楽しかったわ」
 帰り際、マリナは満開の花のように微笑む。
「お礼を言うのは俺の方だ。俺の方こそ、今日はマリナと過ごせてよかった」
 眼鏡越しのオレンジの目は、どこまでもまっすぐだ。
「それで、今日のお礼にマリナに渡したいものがある」
 アルは懐から綺麗に放送された小袋をマリナに渡す。
「私に?」
「ああ」
 マリナはきょとんと首を傾げると、アルは頷く。
 マリナは戸惑いつつもそれを受け取った。
「ありがとう、アル。……開けてみていいかしら?」
「もちろん」
 アルはフッと笑う。
 マリナはそっと小袋を開けて中身を確認した。
 そこには細部まで凝ったオレンジ色の花のネックレスが入っていた。アクセサリーショップでマリナが購入を諦めたものである。
「これ……!」
 マリナは薄紫の目を大きく見開いた。
「アクセサリーショップで欲しそうだったから、今日のお礼にさ」
 眼鏡の奥のオレンジの目を優しく細めるアル。その頬はほんの少し赤く染まっていた。
「ありがとう! 嬉しいわ!」
 満開の花のような明るい笑みになるマリナ。
「よかった。喜んでくれて俺も嬉しい。あ、ちょっと貸してくれ」
 アルはマリナの手からそっとプレゼントしたネックレスを取り、マリナの首に着ける。
 そして持っていた鏡の魔道具を取り出した。
 そこに映るのはネックレスを着用したマリナ。マリナの首元が華やかになった。
「わあ……!」
 マリナは心底嬉しそうな表情だ。
「やっぱり似合ってる。ネックレスも、そのドレスも」
 アルは頬を赤く染めながらもまっすぐマリナを見ていた。
 アルの言葉にマリナの心臓はトクンと高鳴る。
「……ありがとう。アルにそう言われると……嬉しい」
 マリナは満開の花笑みだ。
 マリナの表情を見て、アルは嬉しそうに笑った。
(アルはいつも、私に優しくしてくれたり、私を助けてくれる。今日も一緒にいて楽しかったし……ドキドキしたわ。私、アルのことが好きなのね)
 マリナはこの日の終わり、ようやく自分の気持ちに気づいたのだ。