水曜日の夜。親とケンカして、闇雲に走ってきたせいで、迷い込んでしまったキャンディショップ。
お兄ちゃんが教えてくれた、好きな色と一緒の優しい月灯りの色。レモネードの色。
『水曜日の黒猫』と看板には描かれている。店のイメージキャラクターらしき、可愛らしい黒猫のイラストが目を惹く。硝子ケース越しに映る美味しそうなキャンディが、夢のかけらのようにキラキラと輝いて見える。
その時扉が開いた。中から出てきたのは美しい美術品のような男の人。宵闇色の髪から覗くのは、椿の花の、朱。
少年のようにも、青年のようにも見えるその人は、愛想良くない態度でぽつりと言った。
「中入れば」
「何も聞かないんですか?」
泣きながら彷徨い歩いて、明らかに不審者のようにも映るわたしを。なぜこの人は……。
人の想いが手に取るようにわかるのか、ふっと笑った。
「聞かれたくないんだろう? お前が言いたくないなら構わない。……夢の国、行ってみたくはないか? ここではないどこかへ」
言葉の魔法使いだ。――だって心の中が一瞬で、レモネードの海で満ちる。
わたしはその手を取った。その瞬間デジャヴだろうか。
キャンディのお兄ちゃんが脳裏をよぎる。
お兄ちゃんが教えてくれた、好きな色と一緒の優しい月灯りの色。レモネードの色。
『水曜日の黒猫』と看板には描かれている。店のイメージキャラクターらしき、可愛らしい黒猫のイラストが目を惹く。硝子ケース越しに映る美味しそうなキャンディが、夢のかけらのようにキラキラと輝いて見える。
その時扉が開いた。中から出てきたのは美しい美術品のような男の人。宵闇色の髪から覗くのは、椿の花の、朱。
少年のようにも、青年のようにも見えるその人は、愛想良くない態度でぽつりと言った。
「中入れば」
「何も聞かないんですか?」
泣きながら彷徨い歩いて、明らかに不審者のようにも映るわたしを。なぜこの人は……。
人の想いが手に取るようにわかるのか、ふっと笑った。
「聞かれたくないんだろう? お前が言いたくないなら構わない。……夢の国、行ってみたくはないか? ここではないどこかへ」
言葉の魔法使いだ。――だって心の中が一瞬で、レモネードの海で満ちる。
わたしはその手を取った。その瞬間デジャヴだろうか。
キャンディのお兄ちゃんが脳裏をよぎる。