「ルシウス様、何をおっしゃるのです」

 私はうろたえてしまった。
 城下町。繁華街を抜ければ人通りの少ない静かな路地も多く、周囲に人はいない。
 私はルシウス様に腕を掴まれ、その場に立ち尽くしている。秋の風が吹く。

「俺たちが逃げた事は女王陛下の耳にも届いているでしょう。このまま城に戻ってしまったら捕らえられ、明日の朝、南国の王を迎えに行けなくなるかもしれません。ですから」

 ルシウス様が私の腕を引く。私の身体は彼の胸元にすっぽり収まった。

「一緒に、一晩明かしませんか、姫」

 ドッドッドッドッドッと心臓の音が聞こえる。
 私の? いえ、ルシウス様のものかもしれない。
 緊張が走る。

 ルシウス様が言う通り、城には帰れない。
 その通りだ。
 私は自分に言い聞かせるように胸の中で繰り返した。
 だったら、行く当てがないのなら、ルシウス様と一緒に、一夜を……。

 私はルシウス様の胸元に自分の額を預けた。
 ルシウス様が私の頭を撫でる。心地よい、いつものふれあい。ああ、私はこれが好きなんだ、と改めて思う。

「そうですわね。私、ルシウス様と一緒に居たいです、朝まで」