「姫にとっては不思議でございましょう。仕方ない事です。スパイと疑われるくらい、俺はずっと自らのおこないを隠してきたのですから」

 隠してきた、と言われて、私の胸がチクッと痛む。
 スパイ。ペテン師。今のルシウス様を形容する言葉が、私の頭の中を駆け巡る。

「俺はずっとティアナ姫のために生きてきました。ティアナ姫を守り、支えるため、行動してきました。それが俺です。俺の行動はスパイでもなんでもない。すべてティアナ姫を想っての行動です」

 ルシウス様はまた都合の良い事を言っている。
 私はそう感じたけれど、黙っていた。ルシウス様の言葉に耳を傾けたい気持ちが少なからずあったからだ。
 ルシウス様が続ける。

「女王陛下が女帝の座に就いたのは、10代の頃でしたね。先代皇帝夫妻が亡くなり、陛下はその若さで国を治めるしかなかった。まだ5歳だった姫の親代わりをしながら、国を治め始めた」
「それが、何か?」

 何故お姉さまの話が出てくるのか。
 私の問いにルシウス様が自嘲的に笑って続ける。

「当時10歳になったばかりの俺も、気合が入りました。陛下が表舞台で国とティアナ姫を守るのならば、俺は裏方として国と姫を支えよう。それが俺の使命だ。そう考えました。スパイだと疑われたこの行動のスタートは、それです」

 ぴちゃん、ぴちゃんと地下牢のどこかで水が落ちる。湿り気のある空気が身体に重くのしかかった。
 ルシウス様の独白が続く。