それは初めて聞く情報だった。帝国の貴族たちは誰もそんな事を知らない。

「良いですか、姫。会談の二日前にはフルーツの盛り合わせを持ってご挨拶に伺います。わざわざ帝国までお越しいただいた感謝を伝え、労をねぎらってください。会談前日は朝から観光のご案内をします。南国の王は温泉と肉料理が好きです。一緒に温泉を楽しみ、食事を共にしながら南国の歴史について語り合います。それから」
「ちょ、ちょっと待ってください!」

 すらすらと語り始めたルシウス様を、私は慌てて止める。色々言われて理解できなかったのもあるけれど、何より理解できないのは、その詳しさだ。

「どうしてルシウス様がそんな事をご存じなの?」

 いくらスパイだからって、その情報をどこで手に入れたのか。誰の懐に飛び込んで、どこから盗んだ情報なの? 少なくとも、ミルガルム帝国内で手に入れた情報とは思えない。
 困惑する私の視線を避けるように、ルシウス様は目を伏せた。彼は自らの格好を認識し自嘲する。