近衛兵たちの許可を得て、私はルシウス様が投獄されている独房前へと出向いた。
 薄暗い独房の中で、ルシウス様はこれまでに見た事もないみすぼらしい服を着て、隅に座っている。それでもブロンドの髪と彫刻のような横顔は、いつもと変わらず美しい。

「ルシウス様。お話しよろしいですか」

 声をかけると、ルシウス様は驚いたように鉄格子の前まで駆けてきた。

「ティアナ姫! ああ、会えるとは思いませんでした。会いたかった。いえ、どうされました。なぜこのような場所に?」

 ルシウス様がせきを切ったように話し出す。
 早口になる彼の様子に、不安や焦りを感じた。けれど私は、気付かないふりをする。
 彼の感情に触れては駄目だ。きっと彼の苦悩にあてられ、流されてしまう。
 私は心を閉ざし、口を開こうとした。
 その時。

「いや、そうか。南国の件ですね?」

 ルシウス様が言う。

「なぜわかるのです?」

 スパイだから、この国の事はなんでもお見通しとでも言うのか。
 胸が痛い。ここまで来て、彼のスパイとしての優秀さを思い知らされる事がつらい。
 ルシウス様は鉄格子を握り真剣な顔をした。

「よく聞いてください、ティアナ姫。南国の王は気難しい。会談の席につかせるためには二日前から準備が必要です」