帝国の治水問題なのだから、南国として受け入れがたいというのもわかる。しかし、だからと言って話し合いの前にそっぽを向くのはおかしい。
 同席していた貴族のひとりがポツリと言葉をもらした。

「南国の王は気難しい方です。今まで会談の席についてくださっていた事の方が奇跡に近いかと。本来であれば、話し合いなど出来なくて当然です」
「なに?」
「仕方ない事でございます。諦めましょう、女王陛下」

 他の貴族たちも何も表情で「会談を諦める」事に同意していた。無謀だ、南国との外交なんて。みんなの顔がそう言っている。

「南方の民を見殺しにしろと言うのか?」

 お姉さまが貴族たちを睨みつける。委縮した貴族たちは何も答えなかった。お姉さまが大きくため息をつく。

「おいお前たち、これまでの外交はどのようにおこなっていた?」

 会談をおこなう事が奇跡というなら、その奇跡はなぜ起きていたのか。