「公爵子息は、どういった国交をおこなっているのでしょうか」
「おや、ご存じないのですか?」

 店主が嬉々として話はじめる。

「公爵子息は様々な商人と繋がっています。極秘情報を入手するのも上手い。それを利用して完璧に立ち回るのです。あれは凄い。そうそう出来る事ではありません」

 ぐにゃりと私の視界が歪んだ。
 商人と繋がっている。極秘情報を入手するのが上手い。それはつまり、スパイ活動が、上手い。
 ルシウス様は、スパイ。
 私の思考が停止する。
 店主はまだ何か言っていた。

「――公爵子息はこの国の外交の要です――」

 店主の発した言葉は音として私の耳に届いている。
 でも言葉としては届いていなかった。内容がまったく理解出来ない。

「――公爵子息が裏で取り仕切っているからこそ、この国の外交は上手くいっています――」

 何を言っているのかわからない。
 音は耳に届いても、言葉が脳に届かない。

「――公爵子息は愛する姫のため、影武者に徹してこの国の外交を支えています。街の人間はみんな知っていますよ。本当に凄い男です。みんな公爵子息をたたえています――」

 スパイ。
 スパイ。
 ルシウス様は、スパイ。