「すみません、私は城に務めるメイドのアンナと申します」

 私は適当に名乗って頭を下げた。怪しまれたら元も子もない。店主は城という言葉に反応して、揉み手をしながら近寄ってきた。

「これはこれは。先日はシルクのご発注、まことにありがとうございました。……なにか、問題でもございましたか?」

 店主はクレームを付けに来たと思ったのだろう。私は慌てて否定する。

「いえ、とても素晴らしいシルクでした。陛下も大変喜ばれておいでです。そこで、また別の織物を拝見したいのですが、よろしいですか」
「ええ! もちろんでございます! 少々お待ちください」

 店主に促されテーブルにつく。机の上には様々な布地のサンプルが並べられた。

「素敵な織物ばかりですね。北東諸国の品もありますか?」
「ええ、秘蔵の物がございます。そういえば、先日も北東諸国のシルクをご指定でしたね」

 店主が目を細める。

「なんでも、お姫さまが北欧諸国をコンセプトにお茶会を開いたとか。トラブルに見舞われても、なんとか成功させたいと、マーシャル公爵子息は躍起になっておられましたね。大切な人のために、どうしても成功させたいとおっしゃっていました」

 他人にそう言われると気恥ずかしい。けれど、引っ掛かる部分もある。