「無事終わりましたわね。ルシウス様にはどのようにお礼を言ったら良いか」
「お礼……では、勝手に頂いても良いですか?」
「え?」

 私が返答する前に、ルシウス様は私の体を真正面からギュッと抱きしめた。

「あ、ルシウス様! いけません、こんな所で」
「すみませんティアナ姫。でもこれが一番の褒美です」

 私の頭にルシウス様が頬を寄せる。
 私はルシウス様の両腕でがっちりホールドされ、息が止まりそうだった。
 ルシウス様の襟元から彼の香りを感じる。甘く惹かれる匂い。心臓がうるさい。足の力が抜けていく。

「姫?」

 急にこれまでの疲労を感じ、私は彼の胸に体重を預けていた。包み込まれる感覚が気持ち良かったのかもしれない。

「部屋へ戻りましょうか、姫」

 ルシウス様はそう言うと、私を軽々とお姫様抱っこする。

「ひゃっ」

 私は反射的に彼の首に両手を回した。

「お、落とさないでくださいね」
「じゃあもっと密着してください、姫」

 そう言ったルシウス様が私を抱えなおす。私の全身がルシウス様に触れる。

「姫、俺の首にキスするイメージで抱き着いてください」
「キ、キス」
「そうです。ああ、そうだ。キスしてくれたら歩きます。キスしてください、姫。このままじゃメイドたちにこの姿を見られ続けますよ」

 見上げたルシウス様が綺麗な顔で意地悪な事を言う。「さあ、ここです」と彼は首を傾けた。そんなルシウス様の流し目が色っぽくて、私の心臓はさらに跳ねてしまう。
 綺麗な肌に、筋張った首。ブロンドの髪が揺れる。
 恥ずかしい。
 そう思いながら、私は額を彼の首につけた。私にはこれが限界。それでも、彼の首から香る彼の強い匂いにクラクラしてしまう。

「可愛い人ですね、ティアナ姫」

 くすりと笑ったルシウス様は、私を抱えたまま私の部屋へ向かって歩き出した。