「姫、このルシウス・マーシャルは、貴女様の運命の相手でありたいと思っています」

 返答に困ったのであろう。ルシウス様は普段通り、私を想う言葉を投げかける。
 でも私が聞きたいのはそんな言葉ではない。
 私が聞きたいのは、ルシウス様の本心。本当はどうしたいのか。私とは無関係な人生を歩みたいのではないのか、その答え――。
 怪訝そうなルシウス様の赤い瞳に、私は問いかけた。

「ルシウス様は私に仕えるよう育てられ、そういった運命だから私に優しくするのですか?」

 私の問いにルシウス様の瞳が揺れる。

「ティアナ姫、俺は」

 私は彼の答えを聞く前に彼の手を振りほどき、廊下を駆け出していた。

 聞きたくない。
 ルシウス様の本心を聞くのが怖い。

 私はつい怖さから逃げてしまった。逃げる私を、ルシウス様は追ってこなかった。