克己さんはフランスパンがのぞく紙袋を右手で抱えて持ち、左手でカラフルでお洒落なエコバッグを持って私を見てニヤニヤしていた。

 貴教さんと克己さんは双子だから顔や姿が似ているのは当たり前だが、でもどこかが違う。
 性格は貴教さんの方は優しくおっとりとしている気がするし、克己さんは陽気でちょっとイタズラ好きという気がする。
 そう目の前にいるのは紛れもなく、私をからかうような目で見て来ているのは弟の克己さんだ。

「マルさんが好きなのがバレバレですねえ。チョコちゃん」
 私は赤く火照る顔を克己さんに見られないように下を向きながら、喫茶「MOON」に戻り始めた。
 克己さんが私の横に並ぶ。
「うちに、MOONに来てたの? チョコちゃん」
「ええ。まあ」
「敬語、そろそろ止《や》めない?」
「えっ?」
「まあ、年は俺の方が上だと思うし、そちらはお客様だけど……。もっと俺はチョコちゃんと仲良くなりたいからさあ。敬語だとよそよそしい感じがしない?」
「はあ。そうです……ね」
 克己さんが何でこの時の私には、彼がこんな風に言うのかは分からなかった。

 私はマルさんからもらった栞をそっと握り胸に当てながら、トキさんと瑠衣の待つ喫茶「MOON」に双子のマスターの克己さんとお喋りしながら戻ったのでした。


   ◇◇◇◇◆◇◇◇◇

 私はマルさんと初めてお話が出来て、すごく幸せな気分だった。
 早くまた喫茶「MOON」に行きたい。
 美味しい珈琲や紅茶と美味しい料理やスイーツに心が浮き立つ。
 優しい双子のマスターたちと、素敵な常連客のトキさんとマルさんに会えるのが楽しみだった。
 マルさんの姿に胸がきゅんっと高鳴る。

 だから今日も仕事を頑張る。
 頑張れる。
 小さな楽しみが私のつまらない日常に、ただこなすだけの暗くなりがちな気持ちの日々に、明るい光をくれている気がしていた。