克己さんと楽しくお喋りしているうちに、私のアパートにはすぐに着いてしまった。

「チョコちゃんならマルさんと合うと思うよ。気楽に、気楽に」
「うん。ありがとう」

 友達と別れる時にちょっと名残惜しい気もしてしまうのは、人恋しいからだろうか。
 マルさんと会えたし、さっきまで瑠衣達もいてわいわいと盛り上がってた。お祭りの後の気分。生きているとそんな日が何度となくやって来る。
 胸がぎゅうっとして寂しい日には好きな人達の顔を思い浮かべて。
 そうやってまた今夜の一人ぼっちをやり過ごすんだ。

 私、マルさんに告白されて、――嬉しいの。
 だけど、克己さんに言われた通り、尻込みしてしまう。
 私は恋愛下手だ。
 過去に捨てられたり振られたり。
 そんな記憶ばかりが不安材料となって襲ってくる。
 片想いが通じ合いそうになった途端にマルさんからの想いから逃げようとするなんて、どれだけ私は臆病なんだろう。ここ一番、今こそ勇気を出さなくっちゃ。

「ああ、そうだ。克己さん」
「んっ?」
「今度ね、お弁当の配達先で知り合った人達を喫茶『MOON』に連れて行きたいんだ」
「うんうん、良いよ」
「喫茶『MOON』が思い出の場所なんだって」
「へぇ、嬉しいな。うちが思い出の地なんて光栄だよ。チョコちゃんの職場のお弁当屋さんってことはご病気だったりするの?」
 克己さんと貴教さんには以前どんな派遣の仕事をしているか話した事があって。憶えていてくれたんだ。
「うん。親子なんだけどね、お母さんの方は体の自由があまり利かなくて車椅子で生活していて。娘さんは大病を患ってしまってるけど体調の良い時は体に不自由はないみたい」
 克己さんは少し考えるように黙ってから口を開いた。
「そっか。じゃあ俺がうちのワゴンで迎えに行こうか? 貴教にも話しておくよ」
「ありがとう。あっ、でもさっき瑠衣の彼氏の長谷地くんに車はお願いしたから、大丈夫です。長谷地くんのおばあちゃんが車椅子で移動するから、車も対応させてるって言ってて」
「そう。それなら日にちと時間を決めてくれたら、予約席をとっとくよ。チョコちゃん、出来たらお二人の好きな席も聞いておいて。希望に添えるようにするよ」
「ありがとう! 克己さん」
「じゃあな。チョコちゃんが部屋に入るまで見守ってやるから……。おやすみ」
「そんな、良いですよ」
「良いから。チョコちゃん、おやすみ」
「……ありがとう。帰りお気をつけて。おやすみなさい」

 私は部屋に入る前に路地に立つ克己さんに手を振った。克己さんも手を振り返してくれて。
 私はドアを閉める。
 そうすると今日の出来事が思い出されてきた。

 マルさんが、まさか私を好きだって言ってくれるなんて想像もしていなかったよ……。
 胸が、顔が、体が熱い。
 夢みたい。
 現実感は無くて。

 夜は更けていく。
 私はたっぷりとお湯を張った湯船に浸かりながらため息をついた。恋愛に臆病になり過ぎた自分が情けなかった。
 マルさんに返事をするなら、早い方が良い。
 そっと目を閉じるとさっき見た星空が浮かんだ。
 自然が溢れている田舎のおじいちゃん家から見た満点の星空にはどうやってもかなわない。
 それでも、やっぱり月や星には癒やされる。
 寝る前に、窓からまた星空を眺めよう。マルさんへの告白の返事を考えながら。