以前、克己さんと来た公園に私は蓮都とこうして座っていることが不思議だった。
 ベンチはひんやりとした冷たい座り心地だった。
 目を細めて蓮都は私を見て懇願するように話を続けた。

「千代子はまだ、派遣とかバイトで食いつないでるんだろ? 正社員にもなれずに」
「……うん」

 夜空を見上げると半月が光り輝いている。

「千代子は俺と結婚すれば楽になれるんだ。……昔、二人で約束したみたいに家族になろうぜ。俺には千代子を養う力があるんだ。こんなこと言っちゃなんだけどさ、千代子は学歴《がく》がないだろ? 家が大変だったから大学受験どころじゃなかったのは知ってる。俺と暮せば、今からだって大学に行かせてやるよ」

 はあ―――。

 私は長い長い溜め息をついた。
 なおも熱弁する蓮都をどこか遠くに感じながら。
 違う場所から見ているような。
 他人事みたいに私は蓮都と自分を客観的に見ていた。

「それは愛情……じゃないよね? 憐れんでる? 蓮都は私にも同情してるの? 今まで放っておけなかった彼女たちの一人なんだね」
「違う! 千代子は特別だ! 俺は千代子が苦しい生活の中で精一杯頑張ってるのを知ってる。そんなくたびれた安い靴やポシェットを使い続けなくちゃならない千代子をただ助けたいだけだ。イヤなんだ。辛い思いをしている千代子を考えたら心に浮かべたら、俺も辛くなって。千代子を毎日思い出してたら、いても立ってもいられずに日本に帰って来てた。俺……。だって好きだから! まだ千代子の事が……」
「やめてっ!!」

 もう、たくさんだ。
 やめてよ。
 私にだってちっぽけだけど、プライドがあるんだよ?

「千代子……。俺が離婚したのは千代子に会いたかったからだ。また千代子の笑顔が見たかったし、一緒に過ごしたいと思ったから」

 勝手だよ。
 切なく蓮都を想う日々は、私のなかではもう遠い遠い過去の思い出なんです。

 帰りを待ち続けてあなたを恋い焦がれた私はもういない。

 結婚……か。

 ズシリと重く現実はのしかかる。
 ふわふわとした甘い夢もどこかのんびりしてた時間も蓮都の言葉がぐいっと打ち消して、焦燥感だけがただただ私を襲っていた。