中秋の名月。中禅寺湖から。僕は土鳩猟奇殺害事件の犯人処女おとめでついた心の傷をいやそうと閑散期に妻と旅行に来てる。大空と湖面が混じり合い、とても美しい。湖面に写る月の環が揺れながら僕らを癒す。美しい星月夜ほしづくよは上にも下にも広がっている。本当に美しい。だから、鬱病の僕は妻の着物の背中に顔をうづめ、何度も涙を流した。夕やけが凝縮した茜色の空間の淡い恋心を処女おとめに、仲間意識を土鳩達に、思い出して。

そして僕の重さに妻はよろけかけた。

「大丈夫ですか?救急車は必要ですか?」

声をかけてきたのは岡名という若いビジネスマンで、他に誰も居なかったから、少し話した。そしたら、それが今回の銘探偵の依頼者だと僕は気がついた。