「蚊に噛まれた?もう真っ赤じゃん」
「んぇ?いや……噛まれて、ないッ」
身構えたら緊張して、恥ずかしくて、耳が赤くなっちゃった。「見ないで」と、自分の手で熱くなった場所を隠す。
「なに緊張してんだよ。血を吸うだけだぞ?」
「緊張、するよ。初めてだもん!」
「契約の時にしただろ」
「あんなのは蚊に刺されたと同じだから……」
「だから虫じゃねぇ」と王史郎の肩が、ガックリ落ちる。
吸血鬼と蚊を一緒にしちゃ失礼なのは分かってる。でも血を吸うって言ったら、蚊しか浮かばないよ。
「吸血鬼から血を吸われるのは初めてなので。お、お手柔らかにお願いします……!」
「……」
「ん?王史郎?」
「初めて、ねぇ。お前、覚えてないわけ?」
「なにを?」
「……いや、なんでもない」
「?」
少し寂しそうな目が、キョトン顔の私を写す。
「覚えてないわけ?」って、どういうこと?