「……アオイシ」


口角が上がったまま、ギリッと奥歯を鳴らす。王史郎は、その人を「イオ」と呼んだ。


「もうさゆを見つけたのか、さすが早いな」

「一番乗りでシルシをつけたアンタに言われたくないね。いつもながら嗅覚の鋭さに反吐が出るよ」

「そりゃどうも」


私と話す時と変わらない涼しい顔で、王史郎は喋っていた。だけど彼を後ろから見ると、首筋に光るものがある。あれは、汗?

まさか王史郎、私の声を聞いて走ってきてくれたの?……走った、にしては「助けて」って叫んでから現れるまで、一瞬だったけど。


「やっぱ騎士団も、赤い宝石を狙うんだな。人間が高望みするなよ、自滅するぞ」

「人間と一緒にしないでよ。騎士団は人間だけど、人間じゃない。特別な存在なんだ」

「ふーん。つまり……人間の〝まがい物〟ってこと?」

「!」


カッと、男――イオの目が開かれる。
髪が逆立って、空へ向きそうだ。

とりまきの私は「あわわ」と腰が引け、逃げる気マンマン。こんな場所にいたら、きっと命がいくつあっても足りないよ!