ハッキリ言って、今まで「寒さ」なんて感じなかった。

と言ってもイギリスも日本も同じ北半球にあるから、季節が逆転することはないだろうけど。いや、それより何より。

気温どころじゃない、というのが本音。


「両親が消えちゃって、帰る家もありません」

「……は?」


キレイなアーモンドアイが、飛び出て地面を転がるかと思った。それくらい、男性は驚いている。


「親が逃げる?借金か?家も売却済み?なら警察いくしかないな。最悪、保護してくれるだろ」

「いや、それはマズイです……」

「なんで」


キョトン、と上ずった声が降って来る。気まずくて目を合わせられない。

慌てて下を向けば、艶めいたブーツが目に飛び込んだ。とんでもないオシャレさんだ。


「私の今の状況を伝えると、きっと頭がおかしい奴だって思われます」

「自分がおかしい自覚は?」

「ないです!……ない、つもりです」


保険をかけるため言い直すと、男性の唇が横に伸びたのが分かった。口元にあてた手が、キラリと光っている。