「おい、どこに行くんだよ」

「息抜き、してくる!」


ガタリと席を立つ私に、王史郎の眉が片方だけあがる。彼が不機嫌に見えるのは、きっと気のせいじゃない。


「あんま遠くへ行くなよ。いざって時に守れないからな」

「わ、分かってるよッ」

「あと、他の誰にも触らせるなよ。さゆは俺だけのものだから」

「……言葉が、抜けてるよ」


そこは、さゆ「の宝石」は俺だけのものだから、って言ってくれないと。聞く人が聞けば、束縛の強い彼氏みたいだ。

それに涼しい顔で「守る」とか、簡単に言わないでほしい。聞くたびに、なんか、こう……恥ずかしいもん。


結局――小さな声で「いってきます」と言った私に、王史郎は無表情のまま手を振る。

スルーしてもいいのに、わざわざ手を振ってくれるなんて。律儀な吸血鬼だ。


「はぁ~王史郎って掴めない人だなぁ」


――教室を出て、しばらく廊下を歩く。

授業中ということもあって、すごく静かだ。おかげで、さっきまで混乱していた頭が、徐々に冷えていく。