「さゆにはないの?牙」

「あ、あるわけ……!」


ニッと笑った王史郎。
私をからかうためか、再び長い牙がのぞく。


「コレ、触ってみる?」

「い、いや……っ」

「はは」


王史郎が笑ってくれると嬉しかったけど、本当の姿を知った今……その笑顔が、怖い!


「私を食べようと思って、家に住まわせたの?」

「いや?もっと別の理由」

「別……?」


食べる以外の理由って、まさか……!


「言っておくけど、私をこき使おうたってムダだよ?私、家事はからっきしだから……!」

「知ってる。皿洗いしか出来ないんだろ?
だから昨日、風呂も食事も、俺が準備した」

「そ、そうだよね…………ありがとう」


だったら、尚さら分からない。
王史郎は、どうして私を家に泊めたの?


王史郎は私の頬から手を離し……たかと思えば、バクバクうなる私の心臓をチョンと指さす。

そして一言――「持ってるだろ」。


「持ってる?何を?」

「しらばっくれんな。普通の人間がテレポート出来るわけない。俺の家に漂うバラの匂いに、気づけるわけもない」