動揺する私とは反対に、王史郎は冷静に、足の上の女子を床に置き直す。女子は眠っているのか、ピクリとも動かない。
「なに、してるの?」
「食事」
「アレが、食事……?」
ハテナ、はてなハテナ。
浮かんだ疑問が頭上から出てきては、ポトリと床へ落ちる。もしハテナが目に見えるなら、既に足が埋まるくらいの量が落ちているはず。
「王史郎、あなたは……なに?」
「さっきの光景で分からないか?」
お上品にハンカチで口を拭きながら、王史郎は私の元へ来た。昨日までの王史郎とは違う、怖い雰囲気。この場の空気が、冷たい。
「俺は吸血鬼だ」
「きゅう、けつき……?」
「そ。人の血がご飯ってこと」
ニッと笑った顔から、のぞく牙。鋭く尖ったソレは、私が顔を青くした瞬間から短くなった。そして人間の歯に戻る。
「ウソでは、」
「ないな」
「夢でも、」
「ないな」
王史郎は目の前に来て、伸ばした手を私の頬に添える。