ぼくが順子と出会ったのは高校1年の時だった。
入学式を終えて教室に帰ってきた時、彼女は何かを探していた。
 「どうしたの?」 「ポケットに入れてたはずの財布を落としちゃったの。」
「それは大変だね。 探しに行こうか。」
 そんなわけで再び教室を飛び出してぼくらは財布を捜し歩いた。 「無いなあ。」
廊下を見回し、階段を探し、講堂へ向かっていた時、用務員のおじさんが近付いてきた。
 「おー、何をしてるの?」 「実は、、、。」
順子の話を聞いたおじさんは職員室へ行って先生たちに聞いてくれたらしい。 しばらくして戻ってくると、、、。
 「講堂の入り口に落ちていたらしい。 気を付けてね。」 そう言って順子に財布を渡した。
 「助かった。」 財布を両手で包みながら拝んでいる順子を見て、ぼくはなぜか不思議な気持ちになってきた。
「そんなに大事な財布なの?」 「うん。 これはね、病気で死んだ妹が使ってたの。」
「妹?」 「そうなんだ。 去年の夏に死んじゃったのよ。 だから無くせなくて。」

 ぼくらが教室へ帰ってくると担任が怪訝そうな顔で待っていた。 「何処に行ってたんだ?」
「いや、宮川さんが財布を落としたって言うものだから、、、。」 「まあいい。 早く椅子に座れ。」
 担任は少しムッとした顔でぼくらが椅子に座るのを待った。 「ではホームルームを始める。」
クラスメートは28人。 みんなはぼくらが帰ってくるのをじっと待っていた。