もう、元いた世界に──きーくんだけじゃなく、お父さんとお母さん、優希ちゃんに玲緒奈ちゃん、楓怜ちゃんや学校の友達、宇賀神さん達──親しい人たちと、もう二度と会えないなんて……!

 考えれば考えるほど、会えない悲しみと戻れない苦しみが、ぐちゃぐちゃになって私の心を掻き乱す。

「……っ、う、うぅ〜〜……っ」

 ずっと涙を堪えていたけれど、我慢出来なくなった私はとうとう泣いてしまう。

 心が痛くて痛くて仕方がない。

「リーディア様……! どうか悲しまないでください……!」

 オリヴェルさんが泣き出した私を見て困っているけれど、悲しまないで欲しいなら、私を元の世界に帰して欲しい。

 私の望みはただそれだけなのに──!!

 それなのに、私の気持ちを知っているはずのオリヴェルさんは、無慈悲にも悲しむなと言う。

「……今は悲しいでしょう。しかし、貴女様には神の祝福が与えられていますから……。きっと元の世界のことも、綺麗さっぱり忘れられますよ」

 オリヴェルさんはそう言うと、綺麗な顔で微笑んだ。

 だけど私はその笑顔を見てゾッとする。

 何故なら、彼の瞳のその奥に一瞬、仄暗い何かが見えたからだ。

 ──それは物語に出てくる”魔王”を彷彿とさせる、得体の知れないモノだった。