「──ひな?」

 ふと、昔のことを思い出していた私は、きーくんの声に我に返る。

 その心配そうな色を滲ませた心地いい声に、私の胸が切なさでぎゅぅっと痛くなる。

「あ、ごめん! ちょっとぼうっとしちゃって……っ」

「お茶でも淹れようか? ひなが嫌じゃなかったらだけど」

 きーくんは今、私の家のリビングにいる。
 両親同士仲が良く、小さい頃からお互いの家を家を行き来していたから、どこに何が置いてあるのか、きーくんはよく知っていたりする。

「ううん! 私が淹れる! きーくんは走って疲れたでしょ? 座ってて!」

「本当に大丈夫? やっぱり今日のことで精神的に負担がかかっているみたいだね。明日の誕生日は一緒に過ごしたかったんだけど……」

「え? 明日? ……あ、そうだったね」

 ──そうだ。明日にはもうこんな苦しい想いから解放されるんだ……と考えると、嬉しいような寂しいような、不思議な気持ちになる。

「バイトを早めに切り上げて、どこかで待ち合わせようと思っていたけど……やっぱりやめて──」

「──ダメっ!」

「え、ひな?」

 明日はすごくすごく大事な日だから、絶対きーくんと会わなきゃダメで。

「あ、えと、私は大丈夫だから! バイトが終わったらどこで……って、え? バイト? きーくんバイトしてるの?」

 きーくんがバイトをしてたなんて、全く知らなかった私は驚いた。最近忙しそうだなぁ、とは思っていたけど、まさかバイトを始めていたなんて!