「──ああ、聖女様……! よくぞこの世界に戻られました!! 私は貴女様が必ず戻られると信じておりました!!」

 そう言って涙を流す美しい男の人は、見たことがない場所で、見たことがない華美な衣装を纏っていた。

 ──その姿はまるで、ファンタジー世界の登場人物のよう。

「あの……っ、ここは何処ですか? それに私は普通の高校生で……っ、聖女なんかじゃ──!!」

 漫画やアニメでよく聞く台詞を、まさか私が言うことになるなんて。

「いえ、姿は変わられても貴女様は間違いなく、この国の聖女──いえ、大聖女様で在らせられます! その虹色の神聖力が証です!」

 さらに追い打ちをかけるように、目の前の男──オリヴェル・アスピヴァーラと名乗る男が、私の身体を包み込む不思議な光を指し示す。

「貴女様はその命と引き換えにこの世界を守られた、大聖女リーディア様で間違いありません! 我々……いや、私はずっとっ! 貴女様の御魂を探しておりました! 貴女様がこの世界から去られたその後も、ずっと──!!」

 切実な声で訴えて来るオリヴェルの目は狂気じみていて、どれだけリーディアを求めているのか、その凄まじい執着心が恐ろしくて、私は今すぐここから逃げ出したくてたまらない。

 これが夢なら覚めて欲しいと心から願う。けれど、自身の身体から溢れる虹色の光が、この非現実な状況が現実だという事を示していて、私は嫌でも自覚してしまう。

 ──そう、私は十六歳の誕生日に──初恋の人に想いを告げるその瞬間に、異世界に召喚されてしまったのだと。