残念なんかじゃない。
 大好きな人と遠くまで出掛けて、丸一日一緒に過ごせて、幸せだった。

 だけど…ハイウェイの看板を見上げると、最寄りのインターチェンジまでは、まもなくと表示されてある。
 降りたあとは、ほんの10分程度で部屋に着いてしまう。
 いつだって、このカウントダウンが淋しくて仕方ない…。

 そして、無情にも車は私の部屋の前に停まる。
 私は、言いたい言葉を切り出すか否かで揺れ、黙って俯いてしまう。

「どうしたの?」
 ハザードランプの光と音が、まるで私に早く降りろと急かしているようにすら感じられる。
 カーラジオからは、シカゴの“素直になれなくて”が流れ出す。
 私にとっては、彼との想い出の曲なのに、彼は、そんなことなど覚えてもいないのだろう。
「ねぇ…!」
「ん?」
 私を見つめ返す彼の瞳は、とても優しい。