今夜、部屋に寄っていって…。

 いつも、わがまままばかり言うくせに、本当の気持ちだけは、今も言えずにいる。

 私が、海に行きたいと…しかも、太平洋ではなく、新潟の翡翠海岸へ行ってみたいと言ったら、片道4時間かけて、彼は連れて行ってくれた。
 明日、学生の私は休みだが、彼は明日も朝から仕事なのに。
 それでも、嫌な顔ひとつせずに連れていってくれて、いつものように、部屋まで送り届けようとしてくれている。

 急に彼が、思い出し笑いのように吹き出す。
「何?」
「いや…瑤ちゃんが最初『象牙海岸に連れてって』って言ったときは、どうやってそんな遠くまで連れていけばいいかと思ったよ」
 思わず顔が熱くなる。
「ただの言い間違いだから!象牙海岸がコートジボワールだってことぐらい、私だって知ってます」
「はいはい。翡翠、見つけられなくて残念だったね」