〇学校、教室、朝

 咲奈の元へ駆け寄ってくる友人達。

美鈴「ちょっと咲奈、これどうしたの!?」

 『LILY』最新号を開いて見せる友人A。
 『Yuzukiのカワイイ世界♡』と大きく書かれ、半ページに2人が見つめ合うショット。その下にYuzukiのソロショットが何枚か掲載。2人の写真の下には『“カワイイ”が大好き♡Yuzukiのお友達サナちゃん』の文字。
 他のクラスメイトたちもゾロゾロとやって来る。

泉水「いつものYuzukiの雰囲気と違っててびっくりしたー」
美鈴「咲奈も良い顔してるよね~!」

 雑誌に載っている自分の顔を静かに見る咲奈。

咲奈モノ『私、こんな顔してたんだ……』

〇(回想)咲奈・家、咲奈の部屋

 咲奈のスマホが震える。悠月からメッセージが届く。

悠月メッセ『この前撮った2人の写真、半ページで載せたいみたいなんだけど良い?』
咲奈メッセ『良いよー』
悠月メッセ『発売前に見せてもらえるけど、見る?』
咲奈メッセ『うーん、恥ずかしいからいいや』
悠月メッセ『了解』

〇再び学校、教室

悠月「何?騒々しい……」

登校する悠月。ドアの前で困惑顔。悠月に気づき、一斉に沸く教室内。

泉水「『LILY』見たよ!すごいね、藤堂さん!」
莉佳「実はこういうの好きなの?意外!」
悠月「いや……」

 うろたえる咲奈。

咲奈「て、提案したのは私なの。だからその、これは私の好みっていうか……」
泉水「そうなの!?」
美鈴「咲奈プロデューサーじゃん」
莉佳「確かに、星川さん可愛いもの好きだもんね。前から合ってるなって思ってたんだよね!」
花火「分かる~雰囲気が合ってるよね」

咲奈(私に……合ってる……)
咲奈『そう、なんだ』

 再び雑誌に載る自分を見つめ、笑顔を見せる咲奈。それを慈しむように見つめる悠月。

〇教室、LHR

 黒板に縦書きで『白雪姫、シンデレラ、不思議の国のアリス、赤ずきん』の文字。不思議の国のアリスの下に沢山の正の字。

学級委員B「文化祭でやる演劇は『不思議の国のアリス』に決まりましたー!」
泉水「最近映画やってたし人来そうだよね」
莉佳「ねー配役どうする?特にアリス!」

 クラス中がシンとする。手を挙げる人は誰もいない。1人の男子が家をあげる。

男子A「やっぱ藤堂にやってもらいたいよなー。集客的に」
悠月「……主役は遠慮するわ」
男子B「星川は?この前雑誌載ってたし良いんじゃね」

咲奈(え、私……?)

泉水「良いじゃんそれ!咲奈ちゃんいつも可愛いもの持っててピッタリ!」
学級委員B「星川さん、どうですか?」
咲奈「えっ、と……他にアリス役やりたいって人はいないですか?」

 静まる教室内。

咲奈「どう思う?悠月」

 隣の悠月に声を掛ける咲奈。

悠月「咲奈がやるなら、私は出来る範囲で手を貸すよ」

 立ち上がる咲奈。

咲奈「や、やります!可愛いもの、好きなので!」

〇数日後、教室、演劇練習

 教室の前方で劇の練習をする演者たち。

*演者は咲奈(アリス)、泉水(白うさぎ)、大地(ドードー鳥)、悠月(チェシャ猫)、花火(3月うさぎ)、陽向(帽子屋)、美鈴(ハートの女王)、他男女数名

 教室の後方では大道具、小道具が制作されている。*柚、優海、莉佳は小道具担当

泉水「うーん……アリスのセリフは完璧なんだけど……」
大地「演劇ではない、な」
陽向「棒立ちで活発な女の子感がないよなぁ」
泉水「アンタはまずセリフ覚えなさいよ。でも確かに、セリフを言う時に動きがあった方がそれっぽい、とは思うな」

咲奈(動き……)

咲奈「そ、そうだよね……」

 台本にメモを書く咲奈。しかし手がふと止まる。

咲奈モノ『演劇の動きって——?』

 1人悩む咲奈。悠月がはっと思い出したように口を開く。

悠月「『バラ色勇者』、『混沌学園』、『Hero Girls 2』『はつ恋マドリード』」

咲奈(あっ)

 顔を見合わせる咲奈と悠月。ひらめく咲奈、頷いて笑みを浮かべる悠月。
 その様子を不思議そうに見る他演者たち。

〇夜、咲奈・家、咲奈の部屋

咲奈「……よし!」

 パソコンにDVDを入れる咲奈。*桜井アリサが出演している舞台映像
 台本にメモを書く咲奈、アリサと同じ動きをする咲奈。
 悠月とビデオ通話で話しながら練習する咲奈。*アドバイスをしつつ優しく見守る悠月

悠月「いいんじゃない?」
咲奈「そうかな?でもアリサちゃんの舞台で勉強できる日がくるとはなぁ」
悠月「私も、ウォーキングやポージングは全部アリサで勉強したよ」
咲奈「そうなの!?」
咲奈モノ『思いがけない共通点。なんだか嬉しい——』

 胸を躍らせる咲奈。

〇数日後、教室、文化祭準備

 机を全て後ろに下げた教室。前方に演者、他のクラスメイトは立ち稽古を見ている。できかけの背景や小物、衣装などが生徒たちの机の上や床に置かれている。

咲奈(アリス)「……あれ?私、夢を見ていたの……?」

 床に座り、辺りを見渡す(演技)咲奈。

泉水「良いじゃん!めっちゃ本格的な演劇みたい……」
女子A「なんか、本格的じゃない?」
女子B「星川さんすっご!」

 沸き立つクラスメイトたち。

大地「確かに良くなったけど、気持ちの表現は曖昧じゃね?」
陽向「うん。伝わってこないっていうか」
泉水「だからアンタはセリフを覚えてから言いなさいよ、そういうことは」
陽向「それは……」
大地「でも本当のことだろ? 気持ちが伝わらなきゃ盛り上がらないだろ観客は」

 クラスメイトたちに問いかける大地。

女子A「まあ……」
女子B「それは……ね?」

 チラチラと目くばせし合うクラスメイトたち。

大地「一番出番が多い主役が肝心なんだからさ、頑張ってもらわないと」
咲奈「う、うん。頑張るね……」

 台本を握りしめて言う咲奈。*台本ボロボロ、付箋たくさん
 教室内はどんよりと重い空気、沈黙が広がる。

悠月「ちょっと。ただでさえ負担が偏りがちなのに、さらに圧をかけることないでしょ。まだ時間はあるんだから」

咲奈(悠月……)

 教室の重い空気が晴れ、徐々に話し始めるクラスメイトたち。

泉水「そうだよ、星川さん気にし過ぎないで!本番まで1週間もあるんだし!」
柚「衣装と背景完成したら気持ちついてくると思うよ」
男子A「俺らも星川さんのためにも、大道具頑張るかー!な?お前ら!」

 賑やかになるクラスメイトたち。それぞれの作業を始める中、ひとり考え込む咲奈。

咲奈モノ『アリスの、気持ち——』

 その様子を心配そうに見る悠月と友人たち。

〇放課後、教室
 ガヤガヤと賑わう教室。帰りの支度をする生徒たち。
 咲奈の周りに集まる友人達。
美鈴「今日さ、映画観に行かない?」
花火「行きたい!見たいやつあったんだー」
柚「白夜ストリートの流星くんが主演のやつ?」
優海「私も行く!咲奈はどうする?」
 暗い顔をあげ、作り笑いをする咲奈。
咲奈(とてもそんな気分じゃ……)
咲奈「ご、ごめん。今日はちょっと……」
 震える声で言う咲奈。
美鈴「そっかー。じゃあ仕方ないね」
柚「映画今度にしよっか」
花火「ね。一緒に観たいもんね」
咲奈(みんな……)
優海「あ、駅前にできたカフェとかどう?」
美鈴「いいじゃん!」
柚「じゃ、咲奈また明日ー」
 咲奈の元を去っていく友人達。咲奈は手を振って見送る。その様子を横目で気にする悠月。

〇静かになった教室

 1人台本を読み込む咲奈。台本には『アリス「もう!この世界、一体どうなっているのかしら?」』と書かれている。

咲奈モノ『アリスの気持ち……』
咲奈(動揺、驚き……あとは——?)

 そこに悠月がやってくる。

悠月「あまり根を詰めない方が良いよ」
咲奈「悠月、帰ったんじゃ……」

 窓の外を指さす悠月。外は雨が降っている。

悠月「雨宿り」

 素っ気なく答える悠月にほほ笑む咲奈。

咲奈「……ありがとう」
悠月「それで、どこに悩んでいるの?」
咲奈「アリスの気持ちを理解しようとしてるんだけど……そもそもこのお話自体掴みどころがないから……」

 隣の席に座る悠月。自身の鞄から台本を取り出す。*鞄の底に折り畳み傘がある
 台本に目を通す悠月。

悠月「私は少しだけど分かる部分があるよ」
咲奈「え?」
悠月「……例えば、ここ」

 台本の1箇所を指し示す悠月。