たまたま出入りしていたお店のお嬢さんが、気に入った小物入れが壊れたと泣いていたのだ。両親は呆れ果てて、新しい物を購入するも、お嬢さんは見向きもしない。
 行く度に寂しそうにしている姿が僕と重なって、直してあげたのがキッカケだった。

 けれどその後も、軌道に乗るまでどんなに大変だったことか。所詮は子どもの作る物。足元を見られて、安値で買い取られたことや、タダで引き受けたことなんてザラだった。

 その時のことを思い出して、僕は素直に頷いた。本当に本当に大変だったから。

「自分のこともあるのに、私の望みをこうして叶えてくれただけでも、ユベールくんは頑張ったと思っているわ。我が儘をぶつけてくれても、構わない。むしろ、そっちの方が子どもらしくていいしね。リゼットはそれも言えないくらい、押し潰されていたから。ユベールくんを見ていると安心するのよ」

 サビーナさんの言葉にズキンと胸が痛んだ。リゼットは一切話してくれないけれど、僕は知っている。サビーナさんから聞いていたから、リゼットの過去を。お祖父様の想いを。

 僕は君にそんな想いはさせないよ、絶対に。

「リゼットが安定するまで、まだ時間はかかりますよね。僕、それまでに準備をしていいですか?」
「構わないけれど、準備って?」
「眠り姫に相応しい準備ですよ」

 まぁ、と驚きながらも笑うサビーナさんの姿に、僕は微笑み返した。

 さて、やるぞー!