「ごめんなさい。ちょっと、荒療治をさせてもらったわ」
「荒療治って、サビーナさんはリゼットを大事に想っているから任せたのに……こんなのって……あんまりです!」
「ユベールくん。これは仕方のないことなの。リゼットを人間に戻すには、ね。だから思い出す必要があったのよ」

 人間……に? リゼットが?
 それは願ってもいないことだけど……それでも!

「僕は忘れたままでもいいと言いました」
「けれどそれでは、いつまで経っても、人形のまま居続けるのよ、リゼットは。歳も取らず、老いていくユベールくんを見続けるの。それはリゼットにとって不幸でしかないわ。ユベールくんの死後、リゼットはどうやって生きていくというの?」

 僕は何も言い返せなくなった。
 もしかしたら、リゼットはまた見世物小屋に戻ってしまうかもしれない。下手したら、ボロボロの姿で冷たいアスファルトの上に横たわっている未来だって……否定できなかった。

「同じ時間を生きていく方が幸せだと思わない?」
「すみません。まだほんの少しですが、リゼットと共にいられる今が幸せなんです。そこに水を刺されて、気が動転していました」

 リゼットを取られる。また一人になるのが怖かった。