残された私はサビーナ先生と二人きり。人間だった最後の記憶と同じ光景だ。サビーナ先生は椅子に座り、私は床ではないがテーブルに座っている。

「改めて久しぶりね、リゼット。元気そうで安心したわ」
「ありがとうございます。サビーナ先生はお変わりないようで……その、私の身に何が起こったのか、教えてもらえないでしょうか」
「そうね。でもその前に、リゼットはどこまで憶えているのかしら」

 私は素直にヴィクトル様に婚約破棄された時から、サビーナ先生に会った時まで、憶えている限りのことを話した。
 時折、思い出すだけで胸が締め付けられるほど苦しくなった。この人形に心臓があるのか分からないけれど。

 多分、ユベールと共にいた日々が、穏やか過ぎたからだろう。いかにあの時が劣悪だったのかを思い知らされた。

「マニフィカ公爵様からいただいた手紙の内容は憶えていて?」
「ヴィクトル様、からの?」

 手紙なんて、久しく貰っていないのに、憶えているはずがない。けれどサビーナ先生が言っているのは、恐らく違う手紙のことだと、瞬時に理解した。