人形は話し終えると、糸が切れたかのように、その場で倒れた。男は慣れた様子で、いそいそと人形を座らせる。
 けれどその間も、人形は目を開けることはなかった。

「いかがでしたか?」

 満足気に言う男とは対象に、少年は黙って人形を見つめた。
 客は一人しかいない。けれど、男の方も何かを感じ取ったのだろう。客席に回り込み、少年に近づいた。

「ご興味がおありなら、手に取って見られますか?」
「それは、ちょっと……」
「大丈夫です。ここにはお客様しかいませんので」

 少年が可愛らしい人形をマジマジと見ていたとしても、不審に思う人物はいない。男は(あん)に、そう(さと)したのだ。

「……分かった」

 渋々言う割には、やはりどこか嬉しそうな少年。
 黒髪の人形を持つ姿も、絵になっていた。それくらい少年の方も、見目(みめ)(うるわ)しかったのだ。