「えぇ。見て行かれますか? なかなかに可愛い人形なんですよ」
「……魔法が使えるって本当?」
「へ? あぁ、勿論です。物語を話しながら、魔法を使うんですよ。ね、面白いでしょう」

 ニヤニヤ笑う男の姿を、少年は上から下まで見た。

「……その人形の容姿は?」
「おや、随分と人形に興味があるんですね」
「いいから!」
「はいはい。黒髪ですよ。他に特徴はないのですが、見目はとにかく良い。それは保証します」
「目は?」

 いやに聞いてくる少年を不審に思いつつも、相手は客になるかもしれない存在。無下(むげ)に扱って、取り逃がしてしまうのは惜しい、と男も思ったのだろう。
 それだけ少年の服装から(まと)う空気、言葉遣いなど、他とは違っていたのだ。

 けれど、男の口から出たものは予想外の返答だった。

「分かりません。ずっと目を閉じているので、私も知らないんですよ」
「人形なのに?」
「はい。けれど、このブローチを付けた途端、語り出すんです。英雄ヴィクトルの竜退治を」
「まさかっ! 嘘じゃないだろうね!?」
「お疑いでしたら、どうぞその目で確かめて見てください」

 男はそう言うと、(うやうや)しくお辞儀をして、少年を露店へと(いざな)った。