「さぁ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!」

 晴れ渡る空の下、広場の端から客引きの声が聞こえてきた。周りにはたくさんの人々の姿があったが、誰もその声に見向きはしない。
 それもそうだろう。男がいるのは露店。しかも、サーカス団のテントと勘違いしてしまいそうな造りだった。
 開け放たれた入口から見えるのは、背の高い長机。

 こんな怪しい露店に、誰が近寄るというのだろうか。男は一向に集まって来ない客に痺れを切らせ、店の外に出てきた。
 すると、一人の少年が前を通り過ぎていく。それも上品な服を着ているではないか。
 男は目を輝かせて、声をかけた。

「そこの坊っちゃんもいかがですか? 世にも珍しい、喋るばかりか魔法も飛び出る人形を、見ていきませんか?」

 銀髪の少年は、周りにいる人々と同じように、無視を決め込んでやり過ごそうとした。しかし、ある言葉を耳にした途端、立ち止まった。

「人形?」

 紫色の瞳が男を捉える。男の方は、獲物が引っかかったように、ニヤリと笑った。