「時々、もしもあのままだったら、と思うことがあります。人間のまま、サビーナ先生の元に行っていたら、と」

 ヴィクトル様の手紙で生きることを選択した、あり得たかもしれない未来の話。
 あの時も魔術師協会に所属していたのなら、サビーナ先生はきっと、私をそこに置こうとするだろう。

 そう、今回のように。

「けれどあの時代にいたら、やっぱり生き辛かったと思います。サビーナ先生の前任の先生もいますし、私の噂も……」

 魔力量が多いという噂。それによってヴィクトル様の婚約者になったこと。

「さらに婚約破棄が知られたら、どんな目に遭っていたでしょうか。嫌がらせの他に、誹謗中傷まで加わっていたのではないか、と思うんです。家にも帰れない、落ちこぼれの魔術師。それを考えただけでも怖いです。あの時はもう、それに耐えられるだけの精神を持ち合わせていませんでしたから」

 今はユベールのお陰で精神的に安定している。気力も体力も。復活しているから、受け流せた。一方的にあることないことをシビルに言われても、傍にユベールがいたから。

 でも、疲弊した状態だったら?

「結局、どこへいっても死を望み、自ら命を絶っていたと思います」

 私は目を閉じて、訪れることのなかった未来を偲んだ。その悲しい未来と結末を。