「あら、起きたのね」

 目の前の椅子から立ち上がり、地べたに座っている私に近づくサビーナ先生。

「どうして……」

 前後の記憶を思い出すと、それしか言葉が出てこなかった。

「手荒なことをして、ごめんなさい。自殺しようとしているリゼットを見たら、つい……」
「すみません」

 私は顔を背けた。

「いいのよ。リゼットが、マニフィカ公爵邸で辛い想いをしていることを知っていたから。それに、貴女を連れ出して欲しいと頼まれていたしね」
「え? 連れ出す? 誰にですか?」
「勿論、マニフィカ公爵様よ」
「っ!」

 驚きのあまり、声が出なかった。

 どうして。いや、それよりも何故、ヴィクトル様に頼まれたの?
 もしかしてサビーナ先生は、私が婚約破棄されたことを知っているのだろうか。その後に交わされた話も含めて。